アカデミー賞最有力「ノマドランド」原作者、映画化の心境を吐露「もし映画がひどいものだったら…」(映画.com)

出典元:映画.com

第93回アカデミー賞に作品賞を含む6部門でノミネートされている「ノマドランド」(公開中)は、車上生活者=現代の“ノマド(遊牧民)”として生きる人々を描いたフィクションと現実のハイブリッド映画だ。実在のノマドたちが出演する今作の原作となったのは、ジェシカ・ブルーダーによるノンフィクション本「ノマド 漂流する高齢労働者たち」。3年間にわたり現代のノマドの取材に情熱を傾けたブルーダーが、今作がフィクションを交えて映画化された心境を正直な言葉で語った。(取材・文/編集部)

 「ノマドランド」は、「ノマド 漂流する高齢労働者たち」を原作に、アメリカ西部の路上に暮らす車上生活者たちの生き様を、大自然の映像美とともに描いたロードムービー。プロの役者は、主人公ファーンを演じたオスカー女優フランシス・マクドーマンドと、ファーンと心を通わせるノマドのデイブ役を演じたデビッド・ストラザーンのみで、ほかに登場するノマドたちは実際の車上生活者だ。

 ネバダ州の企業城下町で暮らす60代の女性ファーンは、リーマンショックによる企業倒産の影響で、長年住み慣れた家を失ってしまう。バンに亡くなった夫との思い出と生活のすべてを詰め込んだ彼女は、現代のノマドとして、過酷な季節労働の現場を渡り歩きながら車上生活を送ることに。毎日を懸命に乗り越えながら、行く先々で出会うノマドたちと心の交流を重ね、誇りを持って自由を生きる彼女の旅は続いていく。

――ハーパーズ・マガジンの編集者からこの本を作ろうと言われたとのことですが、現代のノマドと呼ばれる人々を取材しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

 雑誌の記事を読んで興味を持ったのがきっかけです。私はサブカルチャーや、人々がどのようにして自分のコミュニティを見つけるのかにとても興味があります。私が子どもの頃は、RV車に乗っている人たちは、退職金を貯めて贅沢に国中を旅していて、リタイア後のバケーションを楽しんでいるのだと思っていました。しかし、なかには仕事を引退する余裕もなく、全国各地で聞いたこともないような仕事をしながら、車のなかで生活している人もいることを知りました。私の認識と異なる現実に深い疑問と好奇心を抱き、実際に旅に出て何が学べるか試してみようと思ったんです。

――取材を始めた当初、この取り組みが3年間にわたると思っていましたか?

 いいえ、まったく思っていませんでした。最初はバンすら持っていなくて……。テントやレンタカーを借りて、2週間ほど砂漠で取材した後、また1、2回砂漠に戻って取材しました。そしてハーパーズ・マガジンに記事が載ったときには、これでこの物語は終わりかなと思っていたんです。でも、まだたくさんの疑問があったし、雑誌の記事には収まりきらなかったネタもたくさんありました。私はまだこのコミュニティに夢中で、自分が出会った人たちがどうなるのか知りたかったのです。幸運なことに、私の雑誌編集者には書籍編集者の友人がいて、彼女が私にこれを本にできるかと聞いてきたので、「なんてことなの! もちろんです!」と答えました。それが本当の始まりでした。

――映画に出演された“現代のノマド”のひとりであるリンダ・メイさんとの出会いについて教えて下さい。

 リンダに会ったのは、アリゾナ州クオーツタイト郊外のソノラ砂漠で開催された「Rubber Tramp Rendezvous」というイベントでした。そのときは、雑誌に書こうと思っていた人のことがいろいろな理由で書けなくなってしまい、困り果てていたんです。できる限りすべての人に声をかけ、探してまわり、話し続けて、最後に会った人たちのひとりがリンダ・メイでした。私がすごくシャイになってしまい、「あなたの犬を撫でてもいいですか?」みたいな会話をしました。思い切って取材を申し込んだら、了承してくれたんです。その時点では、私がこれから3年間も彼女に付きまとうことになろうとは、お互いに思いもしませんでした。

――いまもノマドの方々と連絡を取り合っていますか?

 ゴールデングローブ賞(今作はドラマ部門の最優秀作品賞、最優秀脚本賞を受賞)はリンダと、本に登場して映画にも少し出てきたレボン、それにスワンキーと一緒に見ていました。Zoomでの視聴会をして、みんなでストリーミング画面を共有していました。最優秀作品賞が発表されたときのスワンキーの姿は必見でしたね。彼女は興奮して大騒ぎしていました。飛び上がってバンの上に頭をぶつけるのではないかと心配しました(笑)。

――映画化の話はどのような経緯で進んだのでしょうか? 観客は原作に登場しない架空のキャラクターであるファーンを通してノマドの生活を見ることになりますが、映画化にあたり、ノンフィクション作家として守ってほしい条件など提示したことがあれば教えてください。

 この映画がフィクションと現実のハイブリッドになることは知っていました。私は映画監督でも脚本家でもないので、映画を作るなら、私が尊敬する過去作品を手掛けた信頼できる芸術家と一緒に作らなければならないと思いました。脚本にこうしろ、ああするな、とは言えません。そういったことは私の役割ではありませんから。

 それに、ファーンはこの物語の素晴らしい入り口だと思いました。実際、この本を書いているときに、編集者から「エンパイアの町から、閉鎖時に道路に出て行った人はいないの?」と言われ、私も「もしいれば、すごくいいキャラクターよね。でも、出会っていないの」と答えていました。クロエがそれを映画で実現できたことで、ちょっとした願望が叶ったような気がしています。

――では、ジャオ監督やマクドーマンドにはどのようにご自身の意見を伝えたのでしょうか?

 船には何人もの船長がいてはいけません。リサーチしたことはたくさん提供しました。この映画が正確で真実味があるものになるのか気になりましたし、簡単なことではありませんでしたが、監督を信頼して任せたのです。

 脚本を読んで、「これはダメ!」「全然違う!」などと言ったことは1度もありませんでした。私が言ったのは、「これが私のリサーチのすべてです。本も読まれましたよね」ということだけです。本には載っていない写真も、音声ファイルも、いろいろとお渡しました。「これだけのものがあるんです。何年もクローゼットに仕舞われていたけれど、使えるものは使っていただいて結構です。でも、上手く使ってくださいね」というふうに。そして、実際に上手く使っていただきました。

 (この物語を)手放すのは大変な決断でした。誰も未来を知ることはできません。もし映画がひどいものだったら、当然とても悲しいですから。でも、クロエの作品とフランシスの作品への尊敬の念をもとに、できる限りの推測をしてみたところ、彼らはその信頼に応えてくれると思いました。そしていま、感謝しています。

――監督を見る目があったということですね。

 実は、クロエを見つけてきたのはフランシスなんです。フランシスのエージェントの夫が私の本を読んでいて、彼女のエージェントに「これがフランシスの次回作になるかも」と紹介したみたいなんです。そこからすべてが始まりました。

 それから間もなくして、トロント映画祭に参加したフランシスは、クロエの映画「ザ・ライダー」を見てすっかり魅了され、自分が適役かもしれないと強く思ったようです。

――ご自身が実際に取材した人たちが映画に登場することになったとき、どのように感じましたか? また、完成した映画を見た感想を教えて下さい。

 映画に出演することになった人たちに関しては、クロエが私のところに彼らを紹介して欲しいと言ってきたこともあったので、その様子を見守っていました。このプロジェクトに参加することになったとき、クロエが過去に俳優ではない人、さらに言えば演技経験のない人たちと仕事をしたことがあると知っていましたし、彼女であればそれが可能であることも分かっていました。いざプロジェクトが始まると、その(実際のノマドに出演してもらう)方向性に好感が持てました。もちろん、3年間取材して、最終的には友人となった人たちを(出演者として)紹介するには、このプロジェクトを信頼する必要がありましたが、結果として後悔はまったくありません。

 スクリーンで彼らを見たとき、自分の物語を語ることで彼らが評価されるのを見て素晴らしいと思いました。試写会でのQ&Aで、フランシスやクロエと一緒にステージに立った彼らを見たのですが、とても美しい瞬間でした。思わず胸が熱くなりました。

――撮影現場には行かれましたか?

 私のバンで現場に行きました。実はエキストラとして出演しているんですよ。誰かと被っていて姿は見えないと思うのですが、キャンプファイヤーの周りでギターを弾いているシーンで、私のギターの音が紛れているはずです。非常にエターナルな方法で出演しました。

――原作、映画でも描かれたアマゾンのキャンパーフォースのように、企業がワーキャンパーを安価な労働力としてみなしていることについての意見を聞かせてください。

 この問題は、一企業よりもずっと大きいと思っています。独占禁止法はデジタル時代になっても守られていません。労働組合さえないこともざらです。人々が、自分にはもっと価値があるという意識を常に持っていられない状況を悲しく思います。(ドナルド・)トランプ前大統領が退陣したいま、状況が少しずつ変わっていくことを期待しています。労働者と雇用者の間には大きな格差があり、所得格差はますます開き、悪化しているからです。新型コロナウイルスの感染拡大がそのすべてを悪化させていますし……。教養として、思いやりを持つ余裕を持ち、このような問題をじっくりと考えられる状況になればいいと願っています。

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